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病気の知識

実質脳内腫瘍

執筆:鶴巻温泉病院 院長 鈴木 龍太

この項について

この項では脳腫瘍の一般的な知識を書きましたが、脳腫瘍には多くの種類があり、それぞれ治療法も違います。

●グリオーマ(神経腫瘍)

どんな病気

グリオーマは脳の実質内にできる腫瘍の代表的なもので、全脳腫瘍中の30%を占めるものです。脳には神経細胞(ニューロン:色々な情報を発信するもとになる細胞)と神経細胞の周りを囲んで守っている神経膠細胞(グリア)の2種類の細胞がありますが、グリアのもとになる細胞が腫瘍化したものがグリオーマです。
成人のグリオーマの多くは大脳半球にできます。脳卒中では症状が急激に起こりますが、脳腫瘍では症状の進行はゆっくりで、本人は軽い頭痛だけで気が付かないこともあります。
グリオーマは脳実質の中を水が紙に沁み込むようにじわじわとひろがっていきます。これを浸潤性の発育といいます。脳の細胞は生きたまま腫瘍に取り囲まれていきます。ですからグリオーマでは症状が出た時には脳のかなり広範囲に腫瘍が広がってしまっていることがあります。
グリオーマには沢山の種類がありますが、ここでは頻度の高い多形性神経膠芽腫(グリオブラストーマ)と、星細胞腫(アストロサイトーマ)についてお話します。

グリオブラストーマは脳腫瘍の中で最も悪性でやっかいな病気です。
脳腫瘍全体の約10%を占める頻度の高い腫瘍で50-60歳代に好発します。頭痛、けいれんが良く起こるようになり、性格変化が見られるようになります。
その後、片麻痺、感覚障害、視野障害、言語障害などの局所神経症状が起こり、次第に悪化してきます。
ついには腫瘍と脳の腫れ(脳浮腫)により頭蓋骨の中の圧が高くなり、朝に強い頭痛、嘔吐、意識障害が起こってきます(頭蓋内圧亢進症状)。

進行が早いので、このような症状は数ヶ月の間にはっきりしてきます。この腫瘍は脳腫瘍の中でもっとも悪性で5年生存率は10%以下です。

アストロサイトーマは良性と悪性に分かれます。
30-50代に好発します。進行はゆっくりで、最初は時々起こるけいれん発作のみで通常の検査では分からずに、てんかん発作として治療されていたり、CTスキャンで脳梗塞と似た画像となるために内科で脳梗塞として治療されていたりすることもあります。
しかし良性の場合は数年間で徐々に局所神経症状がでてきて、脳腫瘍と診断されます。

頭蓋内圧亢進症状で発症する場合は殆どありません。
良性アストロサイトーマは小児や若い人の例では完治が可能な場合もありますが、成人の場合は徐々に進行し、5年生存率は70%、悪性の場合は更に短く20-30%程度です。

どんな症状

初期には殆ど症状がありません。軽い頭痛、ゆっくり進む性格変化、けいれん発作などを見ることもあります。かなり広範に広がった場合や、袋を形成して、水が溜まった場合(のう胞形成)、出血を起こした時にはっきりした症状がでてきます。
症状は局所神経症状(腫瘍がある部位に特異的な症状)としての片麻痺、感覚障害、視野障害、言語障害と、頭蓋内圧亢進症状として朝に強い頭痛、嘔吐、意識障害があります。
目の症状は視野の欠損(目の一部分が見えない)や複視(物が二重に見える)、視力低下などがありますが、皆さんまず眼科へ行かれることが多く、脳の検査まで時間がかかってしまうことが多くあります。

どんな診断・検査

症状がはっきりしている場合は別ですが、結局脳の検査をしてみないとわかりません。脳神経外科か、神経内科に行って脳のCTやMRIを行って始めて分かります。どちらも台の上に寝ていれば良い検査です。脳腫瘍が疑われた場合は造影剤を注射してもう一回検査を行います。

どんな治療法

脳腫瘍はその種類によって治療法が異なります。
種類を決定するのはCTやMRI、脳血管撮影などの検査でもある程度分かりますが、腫瘍の細胞を取ってこないと最終的な診断はできません。ですから手術で腫瘍を取ることが原則となります。
しかしグリオーマの問題は腫瘍がまだ機能している脳実質の中にあるということです。
胃がんでは胃を取ることができますが、グリオーマだから脳を取ってしまおうと言うわけには行きません。
脳には取れる場所と、取ると強い障害が残る場所があります。取れる場所にできた腫瘍はある程度大きく取れますが、そうでないところにできた腫瘍は生検といって少しだけ取ることになります。場合によっては全く手術しないで治療を開始する場合もあります。
原則的にはグリオブラストーマと悪性アストロサイトーマの場合は手術でできるだけ取り、その後放射線治療、抗癌剤による治療(化学療法)を行います。
その後も数3ヶ月ごとに化学療法を続ける場合があります。

 良性のアストロサイトーマのうち、小児の小脳にできるものや、のう胞を形成するものの一部は手術で取るだけで完全に直ります。
それ以外のものは完全に取ることはできないので、手術や生検を行った後、放射線治療を行うのが一般的です。良性のアストロサイトーマに対する治療法は現在議論があり、放射線治療をしない場合もありますし、悪性に準じて抗癌剤まで使用する場合もあります。グリオーマは良性といっても完全に直るものはごく一部です。ですから、一旦治療が終わっても外来で定期的に脳の検査が必要になります。またけいれんを抑えるための抗てんかん薬をずっと飲みますから、外来通院が必要です。
このような治療を行っても5年から10年の間に悪性に変化して再発してくる場合が多く見られます。

放射線治療は数週間かかります。その間に頭髪が抜けたり、頭皮や顔が脹れたり、食欲が極端になくなったり、味覚が変ったりして、ごく一部のものしか食べられなくなることもあります。血液を調べると白血球が少なくなっていることもあります。そのような副作用は治療が終わると少しずつ良くなってきます。
髪の毛も3ヶ月ぐらいたつとまたのび始めてきます。

●転移性脳腫瘍

どんな病気

転移性脳腫瘍は身体の他の部分にできた腫瘍(主に癌)が脳に転移してできるものです。実際の癌死亡例のうち肺癌で40%、乳癌で50%の人に癌の脳転移があります。
しかし、治療の対象になるのは、もともとの癌が治療されていて、脳の転移性腫瘍があり、治療によって一時的にせよ症状が改善し、Quality of life (QOL)(生活の質)が向上できることが原則です。

脳転移をおこす癌(原発巣といいます)でもっとも多いものは肺癌で、脳腫瘍全国集計(脳神経外科学会で行っている全国の脳腫瘍に関する統計)では転移性脳腫瘍の52.7%を占め、そのうち70-80%が男性です。次に多いのが乳癌で、8.8%ですが、全例女性です。

他に大腸癌や腎臓癌が頻度の高いものです。肺癌では原発巣を治療してから転移性脳腫瘍が分かるまで平均3ヶ月で、非常に早く進行します。一方乳癌は転移性脳腫瘍が分かるまでの平均が40ヶ月で、よくなったと思った頃に転移します。脳に転移するということは、全身に癌細胞が回っていることを表しています。ですから転移性脳腫瘍が分かってから1年以内に50%程度の人が亡くなります。しかし例外もあり、治療をきちっと行えば数年にわたって有意義な生活を行っている人もいますし、治療法も進歩していますから、希望を捨てないで下さい。

転移性脳腫瘍は1つだけではないことが多く、40%で2つ、3つと多発性に発症します。多い時には10個所以上見つかることもあります。以前は腫瘍が1個だけの場合にしか手術はしませんでした。最近ではガンマナイフという放射線のビームをあてて治療する方法が開発されて、数多く腫瘍が見つかった場合でも治療をすることが可能になってきました。

どんな症状

転移性脳腫瘍も脳実質内にできることが多い腫瘍ですから、グリオーマと同じように、局所神経症状が起こり、その後頭蓋内亢進症状が起こります。ただ、転移性脳腫瘍の場合は周囲の脳の反応が強いため脳浮腫が広い範囲で起こりますし、多発性のことが多いので、症状の進行は早く最初の症状がでてから1-2ヶ月のうちに頭蓋内圧亢進症状が出てきます。腫瘍から出血することや、のう胞を作ることも多く、脳卒中のように急激に発症することもあります。殆どの例では原発巣の治療を行っています、稀には転移性脳腫瘍がわかったため、全身を調べて他の臓器に癌が見つかることもあります。

どんな診断・検査

癌になった後主治医のもとに定期的に通院すると思います。この際に脳のMRI造影検査も時々行ってもらうと良いと思います。転移性脳腫瘍はMRIでも必ず造影検査を行って下さい。

通常のCT,造影CT,通常のMRIでは小さな腫瘍やわかりにくい場所の腫瘍を見逃すことがあります。特に乳癌の場合は癌の治療から数年経って転移性脳腫瘍が発症することが多いので、5年間は検査をすることをお勧めします。一応の目安としては5年を過ぎた検査で見つからなければ一安心と言えます。腫瘍が小さなうちに早く見つけて治療を行った方が治療成績が良好です。

日本ではまだ保険がおりていませんが、PETというアイソトープで診断する器械を使って、FDGという薬で検査を行うと全身の癌がある場所が分かります。米国ではどんどん行われるようになってきています。日本でも健康診断のなかに取り入れている施設があります(現在2個所だと思います)。

どんな治療法

繰り返しますが、もともとの癌が治療されていて、脳に転移性腫瘍があり、治療によって脳腫瘍による症状が一時的にせよ改善し、Quality of life (QOL)(生活の質)が向上できる場合に治療の対象になります。

治療の対象にならない場合は脳浮腫を軽減させる点滴(グリセオール)や副腎皮質ステロイド(リンデロン、デカドロン)を飲みます。これらの薬は症状を取るのには非常に有効で、数日で症状が取れてきますが、腫瘍が大きくなるとまた症状がでてきてしまい、一時的な効果を期待した治療法です。腫瘍が一つだけで、手術で取れる場所にあれば、まず手術を行い、その後に全部の脳に放射線治療を行います。放射線治療は時間がかかり、副作用もありますから、全身の状態を見て、放射線治療を行わないで、社会復帰を優先させる場合もあります。

腫瘍が小さかったり(3cm以下)数多くある場合はガンマナイフ(他にリニアックサージェリー、サイバーナイフと呼ばれるものもあります)で治療します。ガンマナイフで見つかった腫瘍をたたいておいて、その後に全脳に放射線治療を行う場合や、定期的にMRI検査を行い腫瘍が出てきたら、その都度ガンマナイフを行う場合もあります。

 ガンマナイフは局所麻酔で頭に枠をつけて、ガンマナイフの器械のベッドに寝て1時間ぐらいで終わるものです。1泊2日で退院することもできますから、QOLからみると大変良い方法です。

 その後の治療は新しくできてくる腫瘍に対する治療です。ガンマナイフやリニアックナイフ、リニアックサージェリー、サイバーナイフはどこにでもあるものではありません。現在日本全国で30数箇所に設置されています。主治医に聞いてみて下さい。

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