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病気の知識

胃がん

日本は“胃がん大国”といわれています。しかし“早期がん”で発見された人の90%以上は治る時代です。定期的に検診を受け、早めに発見することが大切です。特に40歳をすぎたら胃の調子が良くても定期検診をかならず受けましょう。

どんな病気

胃癌にかかる率は、地域・人種・食習慣などの違いにより大きな差があります。日本は胃癌大国といわれ、世界のなかでも非常に胃癌の多い国です。日本人の癌死のトップは胃癌であり、年間5万人が命を奪われています(男性では肺癌が胃癌を抜いてトップ)。男女比率は2:1と男性に多くみられますが、若者では女性に多い傾向があります。

さて胃袋といわれるように、胃は食道と十二指腸の間にある袋状の臓器です。胃壁を輪切り状態して断面をみると、内側から粘膜上皮・粘膜固有層・粘膜筋板・粘膜下層・固有筋層・漿膜となっています。癌は粘膜上皮から発生し、徐々に外側へ発育していきます。発育が粘膜下層までにとどまっているものを早期癌といいます(食道癌とは違い、早期癌の診断には転移があるかないかは関係ありません)。癌が固有筋層まで浸潤したものを進行癌といいます。

少し専門的な話になりますが、胃癌の組織型のほとんどは腺癌というタイプです。腺癌には未分化のものから高分化したものまで、さまざまなタイプがあります。また、癌全体の形(肉眼型)も隆起したもの、潰瘍のように陥凹したもの、両方が混ざり合っているものなど、さまざまなタイプがあり、それぞれの悪性度もいちじるしく異なります。それこそ十人十色、胃癌は100人いれば100人それぞれ違うのです。

どんな症状

胃癌特有の症状はありません。早期癌のなかには、癌が陥凹して潰瘍になったために胃潰瘍のような痛みを訴える人もいますが、まったく症状がなくて検診や人間ドックの検査で発見されることも少なくありません。
進行癌では、発症した部位や癌の状態によって、さまざまな障害が起こります。たとえば胃の入口や出口付近の狭い部分に癌ができると通過障害を起こしたり、腹部の膨満感やむかつき、嘔吐などの症状も出てきます。また、癌が発育して胃の内部が壊死したり、潰瘍になると、出血による吐血・下血になったりします。さらに貧血、体重減少、食欲不振といった状態もまねき、これらの症状によって発見されることもあります。

どんな診断・検査

○ エックス線検査
バリウムを飲み、胃内に空気を入れて(一般的には発泡剤というものを飲んでもらいます)、バリウムと空気のコントラストによって胃粘膜の病変をこまかく描き出す検査(二重造影法)です。ただし、エックス線検査による画像の精度は、それぞれの医療機関におけるエックス線装置のレベル、バリウムの質、フィルムの質、現像機の種類、検査する人(放射線技師や医師)の技術などによって、かなりの(たとえて言うならば、美術大学の学生が描く絵と幼稚園児が描く絵ほどの)差が出てきます。つまり、せっかく検査を受けても幼稚園児レベルの検査だった場合には、何も診断がつかないといったこともあり得るわけです。残念ながら、検査を受ける医療機関のレベルがどの程度なのかという情報は、ほとんど検査を受ける側には入りません。ですから、胃癌の検査をするときにはエックス線検査だけでなく、内視鏡検査も積極的に受けることをおすすめします。

○ 内視鏡検査
内視鏡で胃内を直接観察する検査です。内視鏡は、病変の組織を直接採取(生検)して調べることもできるため、良性・悪性を見分けるための鑑別には欠かせない検査です。一般に「胃カメラ」と呼ばれた機器を使っていたころは、非常に苦痛をともなう検査でしたが、現在では「電子スコープ」という非常にやわらかくて細い(直径9ミリ以下のものまである)機器に進歩したため、はるかに楽な検査になっています。

○ 内視鏡下超音波診断法
内視鏡下超音波診断法というのは、内視鏡の先端に超音波診断装置をつけて、胃壁のどの部分まで癌が浸潤しているのか(深達度)を調べる検査です。このほか、癌が広がっている範囲、ほかの臓器やリンパ節への転移の程度を検査するために、CTスキャン(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断装置)、血管造影などの方法で行われます。

どんな治療法

胃癌の治療は、外科的な手術が第一選択です。つまり、癌が発生している原発巣と癌が転移している転移巣を切除することなります。前述したように胃癌は、その分化度、深達度、大きさ、肉眼型などにより、悪性度もさまざまです。最近では、きわめて早期の癌が発見されるようになったので、内視鏡によって切除(内視鏡的粘膜切除術)する治療法でも治る場合もあります。

一方進行癌により食物の通過障害をきたしている場合、口から物を食べられるようにするため腫瘍(癌)だけを切除したり、腫瘍には手をつけずにバイパスのみを作る手術を行うこともあります。
現在、胃癌の治療にはさまざまな選択肢がありますから、胃癌の状態、年齢、体力、家庭環境(家族構成・人間関係など)などを総合的にみて、専門家の医師とよく相談して、本人にとって、いちばん良い治療法を決めることが重要でしょう。

どんな予防法

ハワイで暮らす日系人の胃癌にかかる率は、日本に住む日本人よりも明らかに低いことなどから、その発症には生活環境、とくに食生活による影響が大きいと考えられてきました。これまでの研究から食塩の摂取量の多い地域で胃癌死亡率が高いということもわかっており、塩分との関係も注目されています。一般的に癌の予防には、その原因となる物質を避けることが重要だといわれており、胃癌の場合には塩辛いものを食べすぎないことが大切でしょう。実際に日本人の食生活のなかでは、塩分をずいぶん控えるようになったので、胃癌の発生率は世界的にみても低くなってきました。

また、1994年にはWHO(世界保健機構)が、胃癌のもっとも重要な原因物質として、ヘリコバクター・ピロリ菌を認定しました。日本人の場合は、中高年から若年になるに従い、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染率とともに、胃癌の発生率も低下傾向にあります。現在、若年者の感染率は欧米とほぼ同じくらいといわれています。つまり、今の若者が胃癌の好発年齢(50~60歳)になったときに、日本における胃癌の発生率はかなり下がる可能性もあるわけです。しかし、胃癌の原因はヘリコバクター・ピロリだけではありません。また、残念ながら、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染がどのような過程を経て、胃癌を発生させるかもわかっていません。

胃癌には特徴的な初期症状がないために、発見されたときは手遅れになるケースが少なくありません。しかし、早期癌で発見された人の90%以上は治る時代です(特に粘膜内癌はほぼ100%)。定期的に検診を受けて、早めに発見することをおすすめします。とくに40歳をすぎたら胃の調子が良くても定期検診をかならず受けましょう。

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