病気の知識
乳がん
乳房にできるがんで、日本人女性では胃がんに次いで多いがんです。毎年約3万人が乳がんになるといわれています。出産経験や生活習慣が発症の傾向に影響します。しこりによって発見される場合が多いため定期的な触診が必要です。
どんな病気
乳房にできるがんを乳がんと言います。日本人女性では胃がんに次いで多いがんです。毎年約3万人が乳がんになるといわれています。
閉経前後の年齢層(48-50歳)に発症のピークがみられ、50歳以上に多く、年々増加し、女性では一番多いがんになろうとしています。
乳房は乳腺組織と脂肪組織からできていて、母乳(おっぱい)を作るところが乳腺で、乳房に15-20個ある腺葉で構成され、これはさらに小葉からなり、ここで乳汁がつくられます。おっぱいを乳頭まで運ぶ管を乳管と言いますが、おっぱいは乳腺乳管を通り乳管洞にたまり、乳頭からでてきます。
乳がんの約90%は細い乳管上皮に発生(腺管がん、乳管がん)し、小葉から発生する小葉がんは約5-10%と言われています。特殊なものに炎症性乳がん、乳頭開口部付近に発生するパジェット病があります。
乳がんの発生・増殖には女性ホルモンの影響が大きく性ホルモン依存がんと言われています。この性ホルモンに依存する性質がいろいろなリスクと関連しています。(男性にも乳がんがあります。)
カロリーを極度に多量摂取している人、動物性の脂肪を取りすぎている人は乳がんがおこりやすいとされています。乳がんになりやすさの原因(危険因子)として検討されているものにはいろいろあり、注意すべきものとして
- 出産したことのない方(子供がいない人)
- 30歳をすぎてから初めて出産した方(高齢の初産)。
- 50歳以上の方に多い(若い人にもみられます)
- 家族親戚(母親、姉妹)に乳がんになった人がいる場合。乳がんになりやすい体質が遺伝するものと考えられています。
- 生理が比較的(12歳よりも早く初潮が始まった人)早くはじまった人
- 55歳をすぎても生理が続いている人(閉経が遅い人)(生理が早く始まり、遅く終わる状態は女性ホルモンが活動している期間が長いことを示しています。生理が存在する期間が長いことが誘因と考えられています。)
- 肥満、アルコールをいつも飲んでいる人、生理が終わってからも喫煙している人(脂肪組織にはエストロゲンと言う女性ホルモンを作る酵素があり、関連はまだ明らかにされていませんが、肥満した人は脂肪組織が多く女性ホルモンを多くつくられるためだろうと考えられています。)
以上の項目が乳がんの危険因子をもっている人と言われていますが、このような背景をまったく認めない患者さんも多くいますので、危険因子を持っていない方も30歳を過ぎたら年1回の乳がん検診を受けましょう(頻度は少ないですが、30歳以下でも乳がんはあります)
どんな症状
患者さんの訴えで多いものは、しこり、痛み、おっぱいがはる、乳首から分泌物がでる、といった症状です。
- ○しこり
乳房にできたしこりはみんながんなのでしょうか?乳腺のしこりの約80%はがんでありません。20-30歳代のかたに線維腺腫と呼ばれる良性のしこりを認めることがあります。これは生理に伴って大きさが変化する場合が多く、しこりと生理の期間との関係に注意する必要があります。2cm以下だと自然に小さくなることがあります。
しこり以外の症状としては、
- 皮膚のえくぼ、赤くはれる
- 脇の下にぐりぐり、しこりがある
- リンパ節が腫れています
- 腕がむくむ
- 乳頭から分泌物がでる(下着がよごれる)
分泌物の色は?乳白色?やや黄色く透明?血液が混じっている?
乳頭からの分泌物が片方の乳房からか?左右両側から?
分泌物が乳頭の一カ所からでるのか、二カ所以上からでるのか?
別の病気で内服しているくすりはないか?(薬の副作用で分泌することがあります)
外傷を受けた事がないか?
このような症状がある場合は、分泌物を顕微鏡でみて悪性細胞の有無を検査します。また分泌物の腫瘍マーカーを測定します。
また、次のような症状の場合、他の病気が考えられます。
- 急性の痛み、はれ
急性炎症として急性乳腺炎が考えられます。これは、ほとんどが産褥期の乳腺炎で、以下のものがあります。
- うっ滞性乳腺炎 :凝固した乳汁が乳管を閉塞することによる、化学性の炎症で細菌が関与しない。乳房腫脹、腫脹、疼痛を訴えます。乳房を冷やしたり、マッサージ、搾乳し、予防的に抗生物質を投与します。
- 化膿性乳腺炎 :うっ滞した乳汁の細菌感染によるもので蜂巣炎をおこします。乳房腫脹、自発痛、圧痛を伴い、硬結、発赤、高熱、脇の下のリンパ節炎、膿瘍形成をきたします。切開して排膿が必要になることがあります。
- 乳頭のくぼみ、陥没乳頭、ただれ
陥没乳頭に随伴する炎症として慢性乳腺炎があり、その中に乳輪下膿瘍と言われるものがあります。乳管上皮の扁平上皮化生、乳管拡張などが原因となり膿瘍を発生します。切開排膿だけでは再発することが多く、病巣の切除が必要です。
以上のような症状がある場合は医療機関を受診しましょう。
しこりには悪性のものと良性のものがありますが、乳腺症とよばれる変化も乳房をさわるとしこりのように触れることがあります。乳房の線維化(硬くなる)や小さな袋(嚢胞形成)ができてきて、しこりとして触れたり、痛みがでることがあります。大部分は乳腺の正常細胞が消えたり(退行)、増殖したり女性ホルモンのバランスが悪いことが関与しています。この場合も乳がん検診を受けましょう。乳腺症は病気と言うよりも正常状態からすこしはずれた良性の変化ですが、乳がんを合併している危険性はあります。がんを疑われる場合は生検(針生検の項を参照)が必要であり、その変化を知るためには3ヶ月から半年ごとの検診を勧めます。
★自己検診法(自分でみつけるには)
毎月生理が終わって数日以内に、閉経後、生理のないかたも毎月、日を決めて自己検診をしましょう。鏡を見ながら乳房の形を皮膚の変化がないか(左右に形の違いはないか?おっぱいの皮膚にひきつれやくぼみ、えくぼがないか、乳頭の位置が左右対称か?を両腕を万歳したりおろしたりして、また鏡の前でお辞儀をして、乳房を“ぷらぷら”させて観察します。自分でさわってしこりがないか?横になったり、座ったままで乳房をさわります。指を交互に動かしたり、4本指を滑らすようにして平手で乳房をさわります。乳首から分泌するものがないか乳頭の下をつまむ、マッサージするようにして分泌物を押し出すようにします。毎月行って変化が無いことを知ることが大事です。自分で診断といっても迷ってしまいますので、おかしいなと思ったら検診を受けましょう。
どんな診断・検査
- ○病歴を聞きます
- 昔どのような病気をしたか?家族にどのような病気のひとがいるか?生理の状態は?妊娠・出産の状況は?ホルモン剤の投与を受けたことがあるか?
- ○診察は?
- 両側の乳房を診察し、脇の下、首の回りを触診、視診します。
- ○乳房超音波検査(エコー検査)
- 乳房、脇の下、首の回りの皮膚の下にしこりや腫れたリンパ節がないかを調べます。これは超音波を乳腺などの組織にあてて、その信号を画像としてモニターに映し出すものです。
- ○マンモグラフィー(乳房専用撮影装置)
-
乳房のためのレントゲン検査で両側の乳房の上から見た写真(頭尾方向)と横から見た写真(内外斜位方向)を乳房をはさんでとります。しこりや、小さな白い粒(微細石灰化)がないかをみます。この検査はさわって分からない小さな腫瘤やしこりを作らない病変を映し出すのに有効です。
- ○針生検
- 細い注射用の針を用いて行う場合と太い針を用いて行う場合があります。これは乳房のしこりに針を刺して組織をとり顕微鏡でみる病理検査を行うものです。皮膚を切ってしこりを摘出することがあります:針生検で確実な診断が得られない場合に行うことがあります。
- ○CT検査、MRI検査
- 病変の広がりや転移の有無を調べます。
- ○骨シンチ検査
- 骨転移の有無を調べます。
- ○胸部レントゲン写真
- 肺転移の有無
- ○腹部超音波検査
- 肝転移の有無
- ○腫瘍マーカーの血中濃度測定
- 再発や転移の状況をみる指標です。
どんな治療法
乳がんにもいろいろな状況があり、さまざまな治療法が選択されます。充分な治療法の説明を聞いて選択する必要があります。
これらの選択のときに考慮されるものは、
- 腫瘍の大きさ
- リンパ節転移の有無
- リンパ節転移の数
- 閉経前か閉経後か
- 腫瘍のホルモンリセプターの有無
- 病理学的な悪性度の有無
などです。
- ○手術療法:手術は局所療法です。
- ・胸筋温存乳房切除術
大胸筋、小胸筋を温存して、乳腺のすべてを切除し、リンパ節を切除(郭清)します。
・乳房温存手術
現在はしこりの大きさが3cm以下のものを適応とするようになってきています。乳腺の一部(1/4から1/3)を切除します。ただし、部分切除であるためがんの遺残がある可能性があり術後に残存乳房に放射線治療を併用して乳房切除と同様の効果をあげます。(よほど進行すると胸筋合併乳房切除術を行う場合もあります)
いずれの手術もリンパ節の郭清を施行し、リンパ節転移の有無を顕微鏡でみる病理検査を行います。またしこりに女性ホルモンの受容体(リセプター:ホルモンを作用させるための受け皿)が存在するかを検討します。これらの有無により病気の進行を判定し、術後の治療方針を決定します。現在、リンパ節の切除に関してはいろいろと検討されており、一番最初にがんが転移するリンパ節(センチネルリンパ節:見張りリンパ節)を見つけて、これを郭清し、このリンパ節に転移がない場合は、リンパ節の切除を省略する方法が行われるようになってきています。
- ○ホルモン療法:
- がん細胞ににせもののホルモン剤を結合させて、本物の女性ホルモンが作用しないようにしてがん細胞が増殖しないようにします。女性ホルモン、黄体ホルモンと呼ばれるものが思春期に乳管や腺房細胞を発達させて乳房を大きくします。これは細胞を増殖させる作用があり、生理前に乳房が張って痛むのもこの作用によるものです。このような増殖作用ががん細胞の増殖に影響をあたえます。この作用を抑制するのがホルモン療法です。
女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)を受け取ってホルモンを作用させるものをリセプターと言います。乳がんの約6割がこのリセプターを持っており、女性ホルモンの作用を受けてがん細胞が増殖します。この作用をおさえるのがホルモン療法です。閉経前か閉経後かで、ホルモン療法が異なります。
いずれの場合でも、ホルモンリセプターを持った乳がんの場合に最も使用されている薬はタモキシフェンです。この薬を内服するといわゆる更年期障害の症状がでることがあります。顔のほてり、おりものの変化、生理がある場合は生理不順などがみられます。希な副作用として、子宮内膜がんを来すことがあり、年1度の婦人科検診が必要です。また、ときに血栓症をきたす場合があります。
- ○化学療法(抗がん剤投与):
- 術前に施行する場合と術後に施行する場合があります。術後化学療法は補助療法です。ほとんどの場合、再発を予防することを目的に行います。補助療法を施行することで、再発率、死亡率が低下することが報告されています。術前化学療法はかなり進行した大きな乳がん、手術が適応にならない例に対しおこなわれます。さまざまな抗がん剤が使用されます。主治医から充分な説明をきいてから治療を受けましょう。
- ○放射線治療:
- 局所療法です。局所に存在するがんに対しておこないます。乳房温存療法の場合は局所の再発をおさえる目的で乳房に放射線治療を行います。
どんな予防法
生活習慣の上で自制および制御可能なものとしては、肥満、食事性因子、アルコール飲用、運動が重要です。
- 閉経後は脂肪組織が内因性エストロゲンを上昇させるので、太りすぎ、肥満にならないようにする。
- アルコール摂取をひかえる。
- 野菜、果物、豆類。穀物など食物繊維を多く含む食品の摂取を心がける。
- 動物性脂肪や蛋白の摂取をひかえる。
- 適度な運動をする。
- 喫煙をさける。
- 経口避妊薬の長期使用をさける。
以上のことに注意することが必要です。