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介護の知識

病気の知識

認知症

どんな病気

日本人の寿命が延びるにつれ、高齢者人口も増えてきています。2020年には65歳以上の高齢者の割合が20%以上になると推測されています。これに伴って、痴呆の老人の割合も徐々に増えてきていて、将来に対する大きな課題となっています。

痴呆というのはもともとあった知能が低下することをいいます。したがって、もともと知能が低い(知的な発達の障害)場合には痴呆とはいいません。

認知症とは

痴呆は症状ですから、これを引き起こす疾患はたくさんあります。代表的なものは、アルツハイマー病と脳血管障害ですが、これ以外にもピック病、レビー小体病、ハンチントン舞踏病、正常圧水頭症などがあります。甲状腺機能低下症のような内分泌性疾患でも、痴呆の症状を示すことがあります。しかし、ここでは痴呆の代表例として、アルツハイマー病と脳血管性痴呆について述べます。

アルツハイマー病は初老期に生じるアルツハイマー病と、老年期に起こるアルツハイマー型老年痴呆に区別されますが、病気の仕組みは同じと考えられるので、まとめてアルツハイマー病とよばれます。脳の神経細胞が死滅し、脳が萎縮していくのが病気の原因です。その詳しい仕組みについては、いくつかの重要な要因は解明されましたが、全体の仕組みについてはまだ完全には理解されていません。
女性に多いことが知られています。

一方、脳血管性痴呆の場合は、脳の血管がつまったり(梗塞)、出血したりして、その先の神経細胞が死滅することから、脳が傷害されたために生じます。脳の小さな血管があちこちでつまって生じる場合は、多発性梗塞性痴呆ともよばれます。
脳の血管障害は、動脈硬化症・高血圧・糖尿病などの人に起こりやすいことが知られています。
昔は、わが国では脳血管性痴呆のほうがアルツハイマー型痴呆よりも多いといわれていましたが、最近ではほぼ同数となっています。男女差はあまりありません。

どんな症状

痴呆の症状は、記憶障害を中心とした中核症状と、それに付随する周辺症状(精神症状や行動異常)に分けると整理しやすいでしょう。
痴呆の中核症状として、記憶の障害は大切です。初期には、記憶は昔のことはよく保たれていて、つい最近のことを忘れてしまうのが特徴です。自分がどこにいるか、今は何日であるかなどの自分の置かれている状況が不確かになってきます。これを失見当識障害といいます。

認知症の症状

抽象的な能力や判断力も低下します。言葉をしゃべること、まとまった行為を行うこと、分かっているはずのことが認識できないなどの脳の高次の機能が損なわれます。
痴呆の周辺症状としては、意識の曇り・幻覚や妄想・不安や興奮・抑うつなどの精神症状と、徘徊、異食、拒絶・夜間の不眠・興奮などの問題行動があり、周囲の人を悩ませます。しかし、このような痴呆の経過中に現れる周辺症状は治療によって治療可能なことが多いものです。

アルツハイマー型痴呆
初期の場合は、痴呆も軽度なので、ちょっと話しただけではわかりません。ふつうの物忘れ程度にしかまわりからは見られません。ときどき、物をとられたという妄想がみられたり、一人になることを恐れたりして、家族を騒がせることがあります。おおむね、自分で生活可能です。
中期になると、痴呆が進行して、話もまとまらず、日常なにげなく行えるような動作や行動(散歩や買い物、調理など)も制限されてきます。着衣や入浴などもむずかしくなるので、日常生活の介護が必要になります。失禁も多くなってきます。
後期には痴呆がさらに進行して、言葉や行動も乏しくなり、寝たきりになってしまいます。最終的には体力も消耗して感染症などにかかって死亡します。
アルツハイマー型老年痴呆では全経過はだいたい5年くらいです。
脳血管性痴呆
脳の梗塞の大きさや部位によっていろいろな症状を示し、経過も様々です。大きな脳卒中発作がありそのあと突然に痴呆になることもあれば、小さな脳虚血発作を繰り返しているうちに徐々に痴呆が明らかになってくることもあります。
痴呆の症状はまだら痴呆とよばれ、知的な機能の低下が一様でなく、比較的健常な部分とそうでない部分が混在しています。進行も段階的に悪くなったりします。
大きな人格の崩れがないので、アルツハイマー病のように人柄が違ってしまったという印象はありません。
体の運動の麻痺など、脳梗塞の症状も合併します。
どんな診断・検査

痴呆がどの程度障害されているかは、注意深い問診と知能テスト(長谷川式簡易知能評価スケールが有名です)などで評価します。症状の発現の経過が重要なので、家族からの情報が大切になってきます。

脳のコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)では、アルツハイマー病では全般的な脳の萎縮が観察されます。しかし、痴呆が初期の場合は、必ずしもはっきりした萎縮は見られないこともあります。脳血管性痴呆ではいろいろな程度の脳梗塞が見られます。

痴呆の初期の診断は、専門医によっても難しいことがあるくらいで、つい長くそばにいる家族ほど「年のせい」「年をとって性格が変わった」などと見逃しやすいようです。早期には有効な薬物もあり、治療計画を早めに立てておくことができるので、早期の診察が望まれます。

痴呆の間違えられやすい病態として、老人のうつ病やせん妄(軽い意識の曇りがあって様々な精神症状を示す状態)などがあります。
うつ病のために一見して痴呆があるように見られるときは、これを偽痴呆とか仮性痴呆とよびます。このときは、うつ病の治療をすれば回復可能です。
せん妄の場合には、その背後にいろいろな体の病気が隠されているので、これを検索して、治療していきます。
せん妄の場合は、一日のうちでも症状が動揺しやすいのが特徴です。せん妄が疑われるときは脳波検査が行われることもあります。

認知症とうつ病
どんな治療法

アルツハイマー病の場合は、初期であればドネペジルなどの薬物が有効です。残念ながら進行した痴呆にはあまり効果がありません。脳血管性痴呆の場合は、脳血流や脳代謝を改善する薬物が有効です。もちろん、高血圧や高脂血症があればそれらの治療も行います。
痴呆の周辺症状に対しては、いろいろな薬物を工夫して用いるのが普通です。

痴呆では医学的な対処だけでは限界があり、いろいろな福祉的な支援が必要になってきます。これらについては病院のケースワーカーや、担当の市町村で保健や福祉を担当している部署(保健所など)に問い合わせてください。まだまだ福祉的な援助は充分とはいえませんが、かといって家族の中だけにとどめておいても、早晩介護で破綻してしまいます。
家族での介護が難しくなったときには、入所施設として、病院、老人保健施設、老人ホームなどがあります。
それぞれ痴呆の程度や問題行動の軽重、合併した身体疾患の有無などによって役割を分担しています。

どんな予防法

アルツハイマー病の場合は、現在までのところこれといって確実な予防法はありません。しかし、元気なうちから活動的な生活を送っている方がアルツハイマー型痴呆になりにくいという報告もあります。

(注)現在,行政用語として痴呆の代わりに,「認知症」が使われていますが,本サイトでは主として医学的な内容を扱っていますので,医学用語としての「痴呆」を使用しています。

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