肝硬変とは文字どおり肝臓が硬く変化した状態で、肝臓病が進行すると原因は何であれ、肝硬変に至ります。慢性的に肝臓に炎症が起こっている状態を慢性肝炎と言いますが、それは、「肝炎ウイルスやその他の原因で肝細胞が毎日多数壊れ続けている状態」と表現できます。即ち、肝臓に"ほころび"が次々にできますが、肝臓は黙って只々壊れ続けているわけではなく、そのほころびを修復するために線維の増生が始まるのです。それは、開腹手術の時、お腹の傷に一致して硬い線維の盛り上がりが見られるのと同様な現象です。
しかし、肝臓が他臓器と異なる点は、線維による修復の他に、肝細胞の再生現象が同時に進行することです。肝臓は「とかげのしっぽ」のように、修復のため細胞が増殖するという能力を持っているのです。肝臓がこわれる。再生する。さらに線維が増える・・。この繰り返しにより、肝臓は線維で硬くなり、肝細胞の再生が部分的に強く起こるため肝臓の表面はでこぼこした状態になってきます。このような肝臓を肝硬変と呼び、そこまでの途中経過が慢性肝炎です。問題は、肝硬変になると再生した肝細胞の集団を線維が壁のように取り囲んだような状態(=再生結節)となり、門脈や肝動脈からの血液が流れ込みにくくなることです。即ち肝臓へ血液が流れこむ際の抵抗が増加します。特に門脈血流はうっ滞を起こし、門脈内の圧は上昇します。これが門脈圧亢進症とよばれる現象です。
門脈の圧が上がってきますと、門脈血の一部が肝臓へ流れ込まずに別のルートへ逃げていく血液の流れ(バイパス)ができてきます。バイパスは直腸付近(痔)や腹部表面、食道(食道静脈瘤)などにできます。この中で最も問題となるのが、出血の危険のある食道静脈瘤です。
さらに、このバイパスの持つもう一つの重要な問題は、意識障害を起こす原因となることです。門脈を流れる血液は胃や腸などの消化管から集められた血液なので、その中には消化管で産生されたアンモニアや肝臓での解毒を必要とする種々の物質が含まれています。
健康な人の場合は、門脈の血液は肝臓を通過して解毒され代謝をうけるので問題はないのですが、肝硬変の場合には、バイパスの発達により肝臓を通過しない門脈血が全身に運ばれる割合が多くなってきます。つまり、脳の働きを悪くするような有毒物質の血液中の濃度が高くなってしまうことにより、いわゆる肝性脳症がひきおこされます。肝硬変になりますとバイパスの発達以外でも肝臓の細胞自体の機能が低下し、代謝機能や解毒機能に異常がでるようになります。
わが国ではC型、B型肝炎ウイルスの持続感染により慢性肝炎から肝硬変へと進展する例が多く8割以上を占めます。それにアルコール性肝硬変が続きます。この他に各種代謝異常(ヘモクロマトーシス、ウィルソン病など)、胆汁うっ滞(原発性胆汁性肝硬変症など)、自己免疫、寄生虫、慢性心不全などによるものがあります。
肝臓は代謝の中心でこの機能に問題が起こるといろいろな症状がでてきます。体に必要な蛋白質のアルブミン産生が低下すると血液の浸透圧が維持できなくなり、血液中の水分がお腹の中や手足の皮下組織に漏れ出て、腹水や浮腫の原因となります。血液中のホルモンの量を調節するのも肝臓の大事な役割です。女性ホルモンの代謝がうまくいかないことにより、乳房が男性でも女性のようにふくらむ(女性化乳房)、手のひら特に指先、指の付け根、母指球や小指球が赤くなる(手嘗紅斑)、そして胸の前面にクモの巣のように細かい血管がうきでる(クモ状血管腫)などが出現します。
肝臓は赤血球が寿命を終えて壊された時できるビリルビンを処理する工場でもあります。ビリルビンは肝臓で抱合型にかえられ胆汁中に排泄されます。肝硬変では胆汁を作ったり、排泄する力が落ちてきます。肝硬変が進み肝機能が著しく低下すると血液中のビリルビンが上昇して、皮膚や白目の部分に黄疸が認められるようになります。血小板減少や、血液を固める因子(凝固因子)の低下を認めると血が止まりにくくなります(出血傾向)。
しかし、以上のような症状はあくまで肝臓病がある程度進んだ状態になってはじめて認められるものであり、多くの初期の肝硬変症には通常みられません。
肝硬変はまず、それぞれの原因に応じた治療が必要です。一般的には肝機能が安定していてGOT,GPTが高くない場合は薬剤を必要とませんが定期的な通院により経過をみます。炎症が続く場合にはグリチルリチン(強力ネオミノファーゲンC)やウルソデオキシコール酸を投与します。そして3月毎の超音波検査に加えCTやMRIなどで肝臓癌の早期発見につとめます。以下のような合併症を認めた場合は病状に応じ治療を行います。
原因に応じて予防策をこうずる必要があります。特にB型やC型のウイルス性肝炎によるものは、持続感染状態が判明した場合定期的な外来追跡を行いその状況に応じた治療を選択することが大切です。インターフェロンなどの治療でウイルスが排除できる場合は肝炎を治癒に至らしめることが可能であり肝硬変への進展は未然に防げます。肝炎が治癒しなくてもその進展を緩徐なものとすることは可能です。(B型および、C型肝炎の項を参照)
アルコールの多飲をさけ、日常生活をきちっと管理することはいずれの原因の肝障害においても重要であることは間違いありません。